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風の谷〜泰阜村   
デンマーク・ネストヴェズ市 福祉見聞録(5)

4)デンマーク対日本 福祉制度・比較考

 ここまでデンマークの福祉改革について述べて、デンマークと日本の社会福祉の違いは何か、その根拠は何かについて考えをまとめておこうと思い至った。それを踏まえて、デンマークの福祉改革とは何かをあらためて述べたいと思う。
1945年8月15日に第2次世界大戦が終結し(大学の講義で終戦記念日さえ知らない子供達を見てきたが)、その翌年日本国憲法が発布され、その中で始めてわが国は「社会福祉」という概念があることを身近に知ったのではなかったかと思う。それから今年で66年、まもなく憲法記念日が来る。

 地球上で社会福祉がシステムとして確立している国は、北欧3国(デンマーク・スウェーデン・フィンランド)といわれてきた。この北欧3国でさえ福祉の容にそれぞれの特徴がある。語弊を恐れずに述べれば、デンマークは福祉のソフト分野に、スウェーデンはどちらかというとシステムのハード分野に、そしてフィンランドは教育分野に卓越していると筆者は考えている。実際わが国も、憲法25条で「国は国民の福祉について責任がある」とうたい、バブル時期の一瞬「老人医療費無料」を実施、大盤振る舞いをした事があった。だがそれは北欧の「社会福祉」とは、何かが根本のところで大きな違いがあると感じる。

《その違い 媼疏如Ψ実な暮らしぶり
 北欧3国への視察・研修のたびに、これらの国の人々に共通した質素で堅実な(それでいて決して貧乏ではない)生活に胸を打たれる。日本の大都市に溢れる光りの大洪水やデパートのショウウィンドウを飾るブランドものから発せられる派手さはないが、国民の暮らしに密着した洗練された生活用品が溢れていた。

《その違い◆嫖衂捨90%以上の選挙で選ばれる政治家の治世
  常に90%を越す投票率によって選ばれた社会民主主義国の政治家たちが、まず何よりも國民目線で国を司ってきた歴史の積み重ねが、今日の福祉先進国としての地位を築いたのではないだろうか。

《その違い》100年以上戦争を回避してきた
 かつてインタビューで、「どうしてあなたの国はこのように福祉を推進することが可能だったのですか」との問に、福祉大臣が「私たちは100年以上戦争をしなかった。国民のために戦争を回避する道を選んできた。そのことが今日の福祉先進国を築いたと思う」との言葉がいつまでも耳の奥に残っている。

《その違いぁ侫妊鵐沺璽の失業率4.2%と日本の失業率4.5%(2012年総務省)の意味
 かつて高度経済成長期(1980年代)に、失業率2%台という低い水準を維持していたことが世界の日本礼賛ブームの一端を担っていた時期があったが、1990年代の経済低迷期に失業率は5%台まで上昇した。1997年の大型金融破綻事件を受けて失業率が上昇し、98年に4.7%に至った際には、自殺者の急増という社会現象に繋がった。
 社会保障が整備されていない日本では、職を失うことが即生活破綻を意味しているからである。にもかかわらず世界的不況の中で欧米各国の高い失業率に比べて、日本の低失業率の安定性の要因は、終身雇用(世帯人員扶養の給与体系)という日本型雇用の特色が維持されていることにあると言われている。しかしこの終身雇用(世帯人員扶養の給与体系)を前提にした社会制度は、不況による企業倒産で急激に失業率が上昇すると自殺の急増という大きな社会的ストレスを生むことが日本の特徴といえる。
 一方北欧の失業率は、税金は高いけれども手厚く補償された失業給付と、生産性の低い中小企業で失業した労働者を福祉などの公共セクターで吸収した結果、失業率が低く抑えられていることを示している。

《その違いァ侫椒薀鵐織蝓爾弊鎖静土壌
 これらの国でたびたび耳にする言葉の一つに、「困っている人が居たら助けるのは当たり前」というボランタリーな(無償の助け合いを当たり前とする)精神的土壌がある。今回の視察・研修先ネスヴェズ市でも、ケア付共同住宅入居者100戸にたいして200人のボランティア登録者があるという。もちろん無償である。(今回「ボランティアとは無償という意味でしょう?」と反対に問われた)
 日本だって昔、今のお年寄りが子育てをしていた頃、「お天道様が見ているんだから悪いことはしてはいけない」とか、「困った人がいたら、助けるのが当たり前、それが人の道」「弱いものいじめはしてはいけない、それが人の道」とか言われたものだった。その精神的な土壌ともいうべきものは、どこに行ってしまったのだろう。
 戦後、敗戦から遮二無二復興をめざして働いてきた私たちは、資本主義の競争原理の中で生き、子供達をここまで育ててきた。隣人を蹴落として這い上がることを、だれもいけないことだと教えなかったような気がする。

 少し前まで世界に誇る経済大国と呼ばれていた資本主義国日本は、世界不況の最中に東日本大震災のアッパーカットを受け、その一方で少子高齢化期に最初に突入する国として経済的には瀕死の借金大国に追い詰められている。
 端からは見えぬが、世界で最も社会福祉を必要としている国の一つではないかと思う。

風の谷〜泰阜村  
デンマーク・ネストヴェズ市 福祉見聞録(4)

 3)ネストヴェズ市における高齢者施策の実際
 デンマークが国中のすべてのプライエム(特別養護老人ホーム)を廃止し、これをケア付住宅に転換することで高齢者ケアにおける「在宅ケアシステム」が完成したということができる。
 日本との一番大きな違いは何かというと、子供との同居率が6%という事実があり、基本的に国が高齢者ケアを担う以外に手段がないということで国民的コンセンサスを得ている点である。
国が小さく(国土:九州と同じ位)人口も少なく(兵庫県と同じ位)、システム構築には恵まれている条件にあるといえる。
 20年前デンマークにおける「高齢者ケアシステム」は以下の6つの分野に分けられていた。
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デ杰サービスΧ杁淞綿鵐轡好謄燹,任△襦

 今回のネストヴェズ市視察研修では、従来の在宅ケアシステムが以下のように統廃合され、新たな「在宅ケア・システム」として生まれ変わっていることが確認された。
.廛薀ぅ┘or高齢者専用住宅⇒地域交流センター+ケア付高齢者共同住宅
∈濛陬曄璽爛悒襯廛機璽咼后椨K問看護サービス⇒24時間在宅ホームヘルプサービス(ヘルパーの教育・研修upにより専門性を追加(医師の指示の下、医療行為が可能となる)+ITシステムによるスケジュールとケアの質の管理
ぅ妊ぅ機璽咼喉傭楼荼鯲センター
デ杰センター⇒在宅ケア利用者の食事は(朝食を除く)配食センターで調理されたものが週2回配達される。(援助が必要な利用者には)それをヘルパーが解凍する。利用者はメニューから選んで注文する。
Χ杁淞綿鵐轡好謄燿誘杁淞綿鵐轡好謄
【新設】
地域リハビリテーション⇒退院直後の「医療的リハビリテーション」は病院外来で継続されるが、「介護予防・維持期のリハビリテーション」が(PT.OT.の専門家によって)地域交流センターで実施されるようになった。

風の谷〜泰阜村   
デンマーク・ネストヴェズ市 福祉見聞録(3)

 2)ネストヴェズ市における高齢者施策の特徴
 
 ・ネストヴェズ市の人口は約81000人、65歳以上の高齢者は約13000人(16%)、そのうち高齢者ケアサービスの利用者は2300人(約18%)である。
 ・自治体の行政は市議会が実施、市長は市議会より選出される。実際の行政運営は〇童文化部⊃Χ函Σ雜遏κ欸鯢5蚕儡超部ず睫撹瑤良局が司っている。そのなかでも職業・介護・保健部局が全予算の約48.6%を占めている。 
 ・ネストヴェズ市における行政区画は東西南北に4分割され、必ずその一部に都市部を含み農村部が福祉サービスの格差の影響を受けないよう配慮されている。
 ・病院運営等は広域行政機構(レギオナ)の所轄業務となり、市(コムーネ)は高齢者ケアサービス等(在宅ケア、在宅・病院外来でのリハビリテーション、高齢者・障害者施設事業、児童教育等)を管轄している。平均在院日数4.5日というデンマークでは、基本的に退院後は自宅に戻る。自宅に戻る事が困難な場合、適切な住居を用意する責任を市が負っている。市が適切な住宅を2ヵ月以内に用意できない場合には、法律によってペナルティが課され、病院に対して1日約三万円の罰金を支払うことになる。
 ・高齢者住宅ならびに在宅における医療行為は、インシュリン注射や経管栄養、酸素吸入、医師の判断の下に胃ろうの処置も行う。家庭医は痛みの緩和ケアを行い、病院で亡くなる比率は20%以下となっている。
 ・市の高齢者専用住宅は570戸分(約4%)確保されており、残る約1700人は自宅で24時間在宅ケアサービスを利用している。同居率6%というデンマークでは、24時間在宅ケアシステムにおけるサービス提供の量的な制限はなく、さらなる質の確保のために在宅ケアシステムをIT化するとともに、ケア・スッタフの専門職の教育、人材養成に力を入れている。
 ・保健・医療・福祉分野の国営直轄事業に民間事業者の参入が可能となり、同時にそれぞれの事業体毎の独創性が尊重され、利用者の選択の幅が拡大されることとなった。

 次回は、具体的な施策の内容について説明します。 

風の谷〜泰阜村   
デンマーク・ネスヴェズ市 福祉見聞録(2)

21年前 藤田保健衛生大学医学部 リハビリテーション医学教室研究生として多くの障害者に関わっていた時、私は50歳であった。その当時介護保険制度もなく、交通バリアフリー法もなく、障害者等は自宅に閉じ込められ、絶望の淵に沈んでいたという状況下に置かれていた。
 30年前に母校で習った福祉の原理原則「基本的人権」は、まるで絵空事のように見えた。大学病院で命だけは助けられても、重い障害を抱えた身で、その後の人生を如何に生きるべきか、その答えを誰も与えることが不可能に見えた。
 人が生きる意味とは何か、それよりも何よりも、私に何ができるのかを問うた時、知識も技術も、方向性さえ持たずにいることに気付かされ、猛然と母校・日本福祉大学大学院への受験勉強に取り掛かった。奇跡的に入学が叶い、多くの偉大な先生方と出会ったことが今日の「悠々」の事業展開の基礎となった。日本に真の福祉のポリシーが、厳然として生き続けている事を、今回のデンマーク視察・研修のレポートを通して改めて再認識したことを、感謝をこめて綴りたいと思う。 

「デンマーク・ネストヴェズ市 高齢者施策の概要」
 
デンマーク国は人口554万人(2010年)、九州と同じ位の小さな国である。近年、経済の低迷に加え高齢化の進行による高齢者ケアにかかる経費が2倍になるとの予測から、大規模な行政改革を実施した。2007年1月に従来の14のアムト(県)と275のコム―ネ(市)を廃止し、5つのレジオン(region 州) と98のコムーネ(kommune 市)に統廃合。これにより従来は公務員がその人出で対応していた保健・医療・福祉のケアシステムをICT化(情報コミュニケーション)するとともに∩瓦討痢屮廛薀ぅ┘燹廖米値椒曄璽燹砲髻屮吋付き住宅」に転換することで一気に整理統合し、公務員の大幅な人員削減を実施。国の財政再建を果たしたと思われる。この改革にいち早く成功したのが今回の視察・研修先ネストヴェズ市である。

 1)ネストヴェズ市の概要
 面積:681平方キロメーター 半分は市街地、残りは郊外(田園地帯)
 人口:約8万人 高齢化率:16%
 昼間人口の移動:労働者の15000人はコペンハーゲンなど市外へ通勤、8500人が市外から通勤してきている。
 公共交通のインフラが整備(電車、路線バス)され、平坦な地形から自転車の利用も進んでいる。
 義務教育:19小学校区あり、0年性(6歳)〜9年生(15歳)強制的な卒業はなく、必要と判断されればオプションにて10年生もある。
 市立保育所:73の乳児保育所→学童保育(0歳〜12歳)
     ・学童保育には運営費が市から補助される民間委託有り
    ・保育法の枠内でそれぞれ自由な運営方針のもとに実施可能
    ・保育料は市内同額(0歳〜3歳未満時は高額自己負担となる)
 
 
  



 

風の谷〜泰阜村   
デンマーク・ネスヴェズ市 福祉見聞録(1)

 H24年3月19日 成田空港から福祉先進国デンマークに向けて7泊8日の視察研修の旅に挑戦しました。デンマークには山がない(最高峰174m)。大自然豊かな山国泰阜村から出かけた私には、見渡す限りの地平線に囲まれ、風力発電の風車が回っている国デンマークは、異国そのものでした。
 今回の視察の最大の目的は、デンマークが1987年(デンマーク国高齢者住宅法)から2009年6月までの20年を掛けて、国中のすべての特養(プライエム)を全廃し、新らしいタイプのケアつき共同住宅に転換し、より効率的でなおかつ質の高いケアを目指した改革を行ったということで、その実情をこの目で確かめることにありました。
 この改革の目的は、わが国同様、年々厳しさを増す財政状況のなかで高齢化率がどんどん上昇していく課題(高齢者ケア全体の経費が2倍になると推計された)に、この国の政策として20年も前から一貫して取り組んでいたことが、今回もっとも衝撃を受けたところでした。
 改革内容は、20年間の経緯の中で様々な住宅の形態・運営方法・スタッフの業務内容などの改革を行った結果現在の容に至ったということで、地域との融合に課題が残されていると語られた謙虚な姿勢にまたまた胸を打たれました。
 以下、改革が単に特養を廃止してケアつき共同住宅を立て直したということではないことを肝に銘じ、今回のデンマーク福祉制度改革の概要についてご紹介したいと思います。
《デンマークの概要》
 デンマーク国土面積:約4.3平方キロメートル(九州とほぼ同じ)
 人口:554万人(兵庫県とほぼ同じ)
 首都:コペンハーゲン
 言語:デンマーク語
 宗教:福音ルーテル派(国教)
 政治体制:立憲君主制 18歳以上の男子に徴兵制有(義務4ヶ月) 18歳以上選挙権有
 1949年NATO加盟 1973年 EC加盟
 主産業:金融、不動産、運輸、交通、通信、鉱業、エネルギー(天然ガス、原子力発電所無)
 失業率:4.2% 一人あたりGDP:56,147$ 経済成長率:2.076% GNP:世界第5位
 平均的な国民の税負担率:所得の50%(国税25%+市民税25%)、付加価値税(消費税):25%
  保健・福祉・医療・教育は無料(保育は自己負担有)
 年金:高齢者年金約9万円/月、障害者年金約12万円/月、重度障害者年金約24万円/月
 平均寿命:77.96歳(男性75.64歳、女性80.41歳) 高齢化率:22% 親子の同居率:6%
 平均在院日数:4.5日
 
デンマークはノーマライゼーションを提唱し実行した国として知られている。
 その国で1979年から1982年にかけてこのアナセン教授を委員長とした「高齢者問題委員会」が設置され、「生活支援法」において、高齢者福祉の三原則「自己決定」「生活の継続性」「自己能力の活用」が定められた。
 この理念はその後のすべての福祉改革に貫かれ、世界をリードするデンマークの福祉の核心となっている。 
 次回は今回の研修先ネスヴェズ市の福祉制度の具体的な実態について報告したいと思います。
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