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北欧デンマーク福祉改革見聞録

(月刊「信州自治研」8月号掲載)

高齢者協同企業組合 泰阜
理事長 本田玖美子

1.はじめに


 平成24年3月、我々(同行者:長野県塩尻市議、駒ヶ根市議)は、福祉先進国デンマークに向けて7泊8日の視察・研修の旅(NPO法人福祉フォーラムジャパン主催)に挑戦した。

 この旅の第一の目的は、北欧の福祉先進国の一つとして「ノーマライゼーション」の基本理念発信(1950年〜)等でこれまで世界の福祉施策をリードしてき たデンマークが、1987年(デンマーク国高齢者住宅法)から2000年6月までの20年をかけて、国中の全てのプライエム(特別養護老人ホーム)を全廃 し、新しいタイプの「ケア付き共同住宅」に転換し、より効率的でなおかつ質の高いケアを目指す改革を行なったという点に衝撃を受けたからである。

 デンマーク国(以下デンマーク)は人口554万人(2010年)、国土面積は九州と同じくらいの小さな国である。首都コペンハーゲンの庁舎の屋上から見た 風景からは、高い峰々に囲まれ深い緑に抱えられた信州の地から出かけた我々にとって、山がない(最高峰174m)!低い丘陵地が広がった先の地平線に、風 力発電機(風車)が回っている国デンマークは本当に異国そのものという印象であった。

2004.03.19 テ?ンマーク・ネストウ?ェス?市視察研修  2004.03.19 テ?ンマーク・ネストウ?ェス?市視察研修


 この改革の目的は、我が国同様近年の経済低迷に加え、人口高齢化による高齢者ケア経費が2倍になるとの試算にもとづき、大規模な行財政改革により医療・ 福祉サービスの統合化による効率的な連携を図ることにあった。具体的には、2007年1月に従来の14のアトム(県)と275のコムーネ(市)を廃止し、 5つのリージョン(region 州)と98のコムーネ(kommune 市)に統廃合。これにより従来は公的な人材で対応してきた保健・医療・福祉のケアシステムを、〜瓦討痢屮廛薀ぅ┘燹‘値椒曄璽燹廚髻屮吋付き住宅」に転 換・整理統合するとともに、ITC(情報コミュニケーション)化することで、ケア・サービスの平準化とスタッフの動きの効率化による大幅な人件費削減を 実現、財政再建を果たした。この改革にいち早く着手したのが今回の視察・研修先ネストヴェズ市である。本稿ではNPO法人福祉フォーラムジャパンが主催し たネストヴェズ市の視察・研修を手がかりに、デンマークの医療・福祉改革の概要について報告する。

2.ネストヴェズ市の概要

 ネストヴェズ市は人口81,000人、市の面積は681Km2、 半分は市街地で残りは郊外(大規模な畑や牧草地)。デンマークの首都コペンハーゲンから車で1時間ほどの距離にあり、労働者の15,000人 (18.5%)は市外に通勤し、8,500人(10.4%)は市外から通勤している。公共交通のインフラ(電車・路線バス)が整備され、平坦な地形から自 転車の利用も進んでいる。

 ネストヴェズ市の行政は市議会が実行、市長は市議会より選出される。実際の行政運営は、〇童・文化部⊃Χ函Σ雜遏κ欸鯢5蚕儡超部ず睫撹瑤裡管局が司っている。そのなかでも⊃Χ函Σ雜遏κ欸鯢局が全予算の約48.6%を占めている。

 ネストヴェズ市における行政区画は東西南北に4分割され、必ずその一部に都市部を含み、農村部が福祉サービスの格差の影響を受けないように配慮されてい る。さらに病院運営等は、保健法に基づき広域行政機構(リ−ジョン)の所轄業務となり、市(コムーネ)は、高齢者ケアサービス等(在宅ケア、通所サービ ス、在宅リハビリ、高齢者・障害者施設事業、児童教育等)を管轄している。

 ちなみに、デンマークでは病院への入院はすべて家庭医が 「ゲートキーパー」(後述)となってコントロールされており、平均在院日数4.5日で基本的に退院後は自宅に戻る。自宅復帰が困難な場合、適切な住居を用 意する責任を市が負っている。市が適切な住宅を用意できない場合には法律によってペナルティが課され、市は病院に対して一日約三万円の罰金を払う仕組みに なっており、在宅ケアの方向に政策誘導されているといえる。


3.ネストヴェズ市の高齢者施策の実際


 ネストヴェズ市の65歳以上の高齢者は14,119人(17.42%)(2012年2月)、そのうち何らかの高齢者ケアサービス利用者は2,300人(18%)である。

 デンマークの高齢者ケアシステムと日本との最大の相違は、子供との同居率6%という事実にもとづく。したがってデンマークでは高齢者ケアは基本的に国が担 う以外に手段がない点で、福祉制度改革に国民的コンセンサスが得られている。実際、国土が小さく(九州と同じ位)、人口も少なく(兵庫県と同じ位)、シス テム構築には恵まれている条件にある。

 20年前デンマークにおける「高齢者ケアシステム」は、以下の8つの分野に分けられていた。

.廛薀ぅ┘燹米段麺楔醢型優曄璽燹法´配食サービス ホームヘルプ に問看護 ス睥霄埆斬陝´Χ杁淞綿鵐轡好謄燹´補助器具センター ┘妊ぅ札鵐拭

 今回のネストヴェズ市高齢者ケア視察・研修では、従来の「高齢者ケアシステム」が以下のように統廃合され、新たな「高齢者保健福祉ケアシステム」として生まれ変わっていることが確認された。

 以下の表は、改革前の高齢者ケアサービスと今回の改革後のサービスとの内容の比較を示したものである。


【高齢者ケアシステム改革の相違一覧表】

旧システム

対象者

利用料

内 容

主な2007改革内容

.廛薀ぅ┘

1施設1516人重度要介護者

年金の範囲内  (不足分は市の補助)

全室個室(寝室+シャワー・洗面台付トイレ)   

高齢者ケア付き住宅:(家賃+食費+公共料金)*住居スペースは一般のアパート並みに

配食サービス

要介護者

プライエムの給食室で調理された食事を保温容器で市の職員二人が配食(含安否確認)*1114時 

⇒ヘルスケア:市の中央キッチンで調理し冷凍or真空パックをメニュから選択.昼食(オープンサンド)or夕食(暖かい食事+サイドディッシュを選択)*週2回まとめて自宅に配達or施設へ配達.(冷蔵庫に収納も可)

┘妊ぅ札鵐拭

虚弱老人+フレンド(健康老人/一般人)

34Dクローネ(680円)/

816時まで利用可*10時・3時のお茶+昼食/趣味の手芸コーナー/美容室/手足のケア/リハビリ

自治体のデイセンターor高齢者ケア付き住宅

*リハビリスタッフ(PT.OT.)による機能訓練等の追加.(病院退院後のリハビリ/健康維持トレーニング/障害者に福祉用具給付)

に問看護

医師の判断で必要性を指示された人

無料

血糖値チェック.インシュリン投与.カテーテルや酸素交換.吸入.便秘の処置.湿布の処置.傷の治療.緩和ケア.疼痛治療.薬剤投与.注射.中心静脈栄養等

医師の指示のもと従来の訪問看護業務のいくつかはホームペルパーによる対応が可能となった.

*従来の訪問看護はより専門的医療に限定された

Χ杁淞綿鵐轡好謄

登録要介護高齢者

無料

市消防署に通報⇒PC登録者カルテで確認⇒訪問看護センターからNS.が自宅へ急行し対応.

詳細不明

Service Declaration  2007

 

 

▲曄璽爛悒襯

登録・要介護者

無料

コレクティブ方式で地域内約50世帯の要介護者のケアの責任を持つ.

登録要介護者のケア情報をITCにより管理され、ヘルパーの作業効率がupしている.

補助器具センター

身体障害者

無料

リハ.専門家による支給・修理

レンタル/修理から支給へ



 屮廛薀ぅ┘燹楜訖センター」or「デイセンター」⇒「高齢者センター+高齢者ケア付き住宅」


 2007年の改正では、それ以前のプライエム(特養)が廃止され「高齢者ケア付き住宅」が新設された。市の「高齢者ケア付き住宅」は570戸分(約4%)確保されており、残る約1,700人は自宅で24時間在宅サービスを受けている。

  「高齢者ケア付き住宅」は、個室の広さが(基本的にリビング+寝室+ミニキッチン+バスルーム/トイレ・洗濯室)と一般的な個人アパートに近い形になって いる。入居費用は、家賃:一人用(73m2)、6071クローネ(*1DK=15円/H24年3月時のレート)、2人用(81m2)6726クローネに公 共料金(水道・光熱費)と食費等が自己負担となっており、どちらかというと入居希望者は減少傾向が見られるという。

2004.03.19 テ?ンマーク・ネストウ?ェス?市視察研修


 改革以前に比べて、現在では高齢者の活動的ニーズが増加し、交流センターで地域の高齢者と共にリハビリスタッフ(PT.OT.)から集団でリハビリを受けることができるようになった。

  私たちが視察に訪れたキルデマークセンター(高齢者ケア付き住宅)では、利用者各人が部屋に自分の家具を持ち込み、自由に生活していた。しかし一方で、お 年寄り達が自室入口に立ちならび、訪問した私たちを自室に招き入れ交流したがる場面に遭遇した。スタッフ数削減の結果、個々人への精神的ケアが手薄になっ ている可能性が危惧された。

 加えてこの施設には、ロボットの動物や抱いたとき人間の赤ちゃんのような感触を得られる人形、大きな低反発 クッションに腰掛けると全身が沈み込み、まるで誰かに抱っこされているような感触を得られる等、人間の癒し機能の代替商品があちらこちらに置かれていた が、それを利用している光景は見受けられなかった。

2004.03.19 テ?ンマーク・ネストウ?ェス?市視察研修  2004.03.19 テ?ンマーク・ネストウ?ェス?市視察研修



個人の医療・福祉・サービスのITC(情報の一元化)


  個人をいわば総背番号制にすることで医療・生活情報を電子カルテ化し、病院と家庭医(「ゲートキーパー」(前述))、高齢者ケアセンター間での情報の共有 化・一元管理を実施し、これによって住民の保健・医療・福祉に関する個人的なニーズをコントロールし、より経済効率化と質的な平準化がなされた。


在宅ホームヘルプサービス+訪問看護サービス⇒24時間在宅ケアサービス(ヘルパーの医療行為への役割拡大+訪問看護サービスがより専門的な医療行為に限定)

  2007年改革最大の変更点は、在院日数が4.5日と短くなった分だけ在宅に医療的なケアが移行したことである。同居率6%というデンマーク(前述)で は、「24時間在宅ケアサービス」におけるサービス提供の量的な制限はなく、ケア・スタッフの専門職の教育・人材養成に力を入れた。

 具体的には、医師の指示のもと従来の訪問看護業務のいくつかはホームペルパーによる対応が可能となった。


暖かい手作りの給食サービスから冷凍orレトルトパック食の配食サービス(週2回)へ

  ネストヴェズ市にあるケア付き共同住宅では専門の調理師を雇用していた(100人分×3食)。やはり在宅用の冷凍orレトルトパックをレンジでチンしたの では、入居者のニーズを満足しないということであろうか。ここの管理者も近隣の住民にもデイサービスとしてもっと利用してもらいたいとのことであるが、利 用者が少ない事が問題であると述べていた。従来のデイセンターでは、毎日安価で暖かい手作りの食事を食べるために、高齢者ばかりでなく近隣住民の多くが利 用していたが、この暖かい手作りの食事サービス機能を削減した事は、デイサービスの一番重要な役割を失ったことを意味すると思われる。

 在宅ではレトルトパックが週2回の頻度で在宅の配食希望者に配られるが、高齢者の「集い食する」という「生きがい」の欠落が、デンマークの高齢者の暮らしに今後どのような影響を与えるのか興味深いものがある。

2004.03.19 テ?ンマーク・ネストウ?ェス?市視察研修


サ弱老人への支援(24時間在宅ケアサービス)

  デンマークにおける「24時間在宅ケアサービス」と日本の「介護保険サービス」が酷似しているところは、公的なケアサービスから全人的なサービスの視点を 削除し、医療的・身体機能的な側面に絞り込んだ事である。定量的に図ることの可能な見えるサービスを基準化し、これから外れたものを基準外として公的サー ビスから削除するということである。デンマークの凄いところは、たった20年で「限りなく人間的な個人的ニーズへの対応を税金ではしない」とした事であ る。かの国の税金は国税25%、地方税25%、消費税25%と厳しく、個人的な好みへの微調整は個人が自費で賄うべしとなった。しかしこの高額な税金を納 めたのちに、個人的なニーズにお金を払う余裕はないのではないかと思う。夜中に何らかの突発的な状況で助けを必要としている人が、早朝ケアのヘルパーを待 ち続けていたとしても、その基準外のニーズが認知症の方の不安・混乱等の対応等の精神的な側面へのケアサービスのゆとりは、ITC化により削除されてい る。しかし今回の在宅ケアへのヘルパー同行研修では、通常のノルマ完了後に(ボランティアとして時間外に再訪し)ゆっくりとお茶を飲みながら悩みを30分 ほど傾聴しておられ、本人が非常に満足していた光景があったことを追記したい。

 デイサービスから会食(暖かい手作りの食事の提供によ る)の機会を奪い、代替手段として療法士による身体機能改善へのリハビリ治療を追加したが、住民同士の交流による精神的な癒し機能や支え合いの機能に代わ る事は出来ないようである。視察・研修中に講師が「デンマークの一番の問題はアルコール依存症への対応」と述べていたが、今回のデンマークの医療・福祉制 度改革の一側面の事情を物語っているかもしれない。


 以上、2012年度NPO福祉フォーラム・ジャパン デンマーク高齢者ケア視察研修における「ネストヴェズ市高齢者施策」を概説した。

 我が国の喫緊の課題でもある財政赤字を克服した福祉先進国デンマークの施策には学ぶべき点が多かった。

 一方、福祉専門職の立場からは、本来個々人の生活ニーズに対してオーダーメードで人と人との「温もり」が最も求められるべき福祉の原点を常に確認しつづける必要性も痛感させられた。

 なお、本論は短期間の視察研修における筆者の体験にもとづいており、様々な誤解もあるやと危惧している。ご指摘いただければ幸いである。


参考文献
The Care and Health Administration The Authority Department「Service Declaration (サービス品質保証書)〜About help in your home and other services in the field of health & elderly care〜」(〜高齢者保険福祉サービスについて〜)2007年

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