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風の谷〜泰阜村    
   お手玉の効果!

昨日、愛知県の刈谷市から素敵なお年寄り軍団の視察・見学を得た。お土産に、手作りの小豆や稗や何かわからない豆類の入ったお手玉と、雑巾を頂いた。83歳、86歳、90歳等妙齢のお年寄りたちがやってきた。運転手は90歳の一昔前の青年のようなエネリギッシュな方が3人のお仲間を乗せて来たのだという。「ボランティアで自分たちで身を寄せ合う場を作ったんだ」、「こっちでは肩がぶつかっても口もきかん」とおっしゃて、関わりの薄さを嘆いておられた。

 「過疎山村のこの村では、肩がぶつかるほど近くには人がおらんでね〜。我が家のお隣は一山ぐるりと回った反対側の山中に住んでいるし・・・。でも人恋しくて、たまに出会うと、みんな笑顔で挨拶や立ち話をちょこっとするよ」と紹介する。

 町の喧騒の中に取り残されるお年寄りたちはさみしくてたまらないのだろうか。これをどうにかしたいと、自分たちで「寄合場を造ったのだ」という。世に言うデイサロンの事であろうか、昔は宅老所というのがあったが。「食事代は400円、ヘルパーを頼むので人件費にとられて、私はあんたと同じ無給です」とやっぱり赤字を嘆いていた。

 そこでやっていることがすごい!東日本の震災の時から始めた雑巾つくりと、お手玉つくり。施設をやっていると、やっているものにしかわからないが、本当に欲しいものの筆頭にぼろ雑巾が上がるのだが、それを今も作って被災地に送り続けているという。それがデイサロンの仕事なのだ!すごいと思う。年を取り身を寄せ合って集まった人々が、世の片隅で何か他の人々の役に立つことをしよう!という発想をコツコツと実行し続けているというのだ。その世話人は、83歳であった。後期高齢者の真っただ中にいらっしゃる。

悠々でもまだ手先の動く方には雑巾を作っていただいているし。豆の種だしもするし、夏ミカンの皮むきもしているが、世のため、人のためにする余裕がないところが違うと思わされた。

 そしてお手玉!92歳のあの俯きがちの寡婦が、頂いたお手玉に夢中になった。「こんなのが出来んくなった。あ〜残念!これも、あれも出来たはずなのに・・・」と夢中になって老女3人と若年50代〜70代の我がスタッフも挑戦する。昔取った杵柄が、心を活性化して、久しぶりに悠々に笑い声が弾けた。感謝です!

 帰りに「こんな悠々に私は絶対にお世話になりたい。また来ます。」と言って帰られたが、泰阜に来ていただけたら嬉しいが、このような方たちは、その刈谷の町にこそ必要なのに!と思う。刈谷市の行政の皆様、この宝物を早く発見してください!どこかの施設に持ち去られてしまいますよ! 

 

風の谷〜泰阜村     
    〜浅黄色の森の中で〜

 泰阜村が浅黄色の美しい衣を纏って、ひっそりと佇む季節が来た。一年で最も美しい季節。「泰阜村のどこがいいのか」と例外なく視察者に尋ねられる。その質問を受けていつも私の脳裏に浮かぶのが、この全山浅黄色を纏った里山の風景である。命の迸りをはじけさせて、農作業に勤しむ村の年寄り達を包む。今一つわが村の知る人ぞ知る県立公園万古渓谷には、あふれるほどの水流を迸らせる渓谷沿いの燃え上がる新緑の光のシャワーを浴びて一日をゆっくり過ごす隠れ場所がある。多くの訪問客は感動のあまり言葉を失う。迸る水の音を耳に、愛らしい小鳥たちの姿を目で追い、そのさえずりに耳を傾けながら眠りに落ちる。森の発するフィトンチップの甘い空気を吸って、心も体も癒され大都会の喧騒の中に戻っていく。

 視察に訪れる訪問客をご案内すると、自分たちが何に疲れているのかがわかると言う。都会の人工音が吐き出す騒音と振動、排気ガス、夜中までまぶしく光る看板とイルミネーション・・・。それらが人間から生きるエネルギーを知らず知らずのうちに奪っていることを知ると言う。

 人は大自然のいのちの中で、いのちに支えられて・・・頑張らなくても生きていけるのであろう。

夜には満天の星が降り、満月にはその明かりで懐中電灯無しで歩けると知っていますか?幾重にも重なる山々の果ての遠いアルプスの稜線に落ちる夕日が天空全体を真っ赤に染め、小さな山村とそこに住む人々をも朱色に染めて一服の名画と化すのを知っていますか。

 桜が散り山吹の黄色が消えて、今は紫色の藤の花が里山のあちこちを彩っている。もうすぐ森の木漏れ日のなかに笹百合のやさしい群生が見ごろだ。

 悠々の庭も芝刈りを終えて、花壇には春の花が植え込まれ、小さな畑に春野菜の苗が植えられる。

悲しみを乗り超えて、独りの寡婦が少し元気になったか・・・。日々の小さな出来事に笑顔を見せるようになった。

 その笑顔を見て、スタッフ一同そっと安堵の息を吐く。今日は恒例の悠々の「生活リハビリ教室」でたくさんのお客様が来る。さあ〜、おいしいご馳走を造るぞ!がんばれ理事長!

 

 

風の谷〜泰阜村   
   田本神社・春の大祭

  泰阜村に春の花々が咲き乱れ、晴れ上がった空に小鳥の囀りが響きわたる集落の真ん中にある田本神社で、今年も春の大祭が執り行われた。我が部落に祭りの宿六の大役が回ってきて、早朝から男も女も祭りの準備に駆り出された。この神社は本殿2棟、棟札2枚、神寶類16点、石造物10点が村指定有形文化財に指定されているものだ。神社の真向かいには大峰山の山城が聳え立ち、水張の始まった棚田を見守っているのが伺える。地元のもう年よりしかいなくなった集落だが、春と秋の例大祭には、今年生まれた孫たちのお宮参りが行われ、村人たちに披露されわが村の宝物のように祝福されるものだ。今年はその孫たちのお宮参りが一人もなく、寂しさが募った。祭りの後の直会(なおらい)の席の話題は、自然に「次の秋の祭りにはどこの嫁さんの腹の中の子が見られるかの〜」とのお年寄りからの切実な声が聞かれた。若い命の誕生は、我が集落にとって何物にも代えがたい寶なのだと思い知った祭りであった。

 その宝物が成長して小学生になった女の子は、祭りのメインイベントである「浦安の舞」の巫女さんに選ばれ、そのあどけない舞が奉納される。地域の人々はこの祭りを通して、小さな小さな集落の命の繋がりが、地元の神々に見守られていることを体験する。その祭りを通して、地域の絆を肌で感じるのかもしれない。

風の谷〜泰阜村    
    春の野に出でて来し方を想う

 92歳M翁をお送りした日はひどい雨の中だった。帰りの車内で、喪服の妻が「涙雨だよ」とつぶやく。「自分勝手にさっさと逝ってしまって・・・。私は長く生きすぎた。こんなに馬鹿になってしまって」と繰り返す。付き添いの私たちには返す言葉もない。

 悠々にたどり着くとお茶になった。入居者のお年寄りたちも他人ごとではないかのように、私たち一行の一挙手一投足を目で追っている。お一人の神経の細やかなお年寄りは、その夜半血圧が198/116に急上昇、少しバタバタ騒ぎとなった。

 それからの数日間、夜になると「誰もいなくなって、寂しい・・・」と当直のおじ様たちを悩ませるようになった。日中は出会うたびごとに目が私に訴える無言の言葉を受け止めるようにハグをする。この寂しさを慰める言葉もなく、ただ黙って受け止めるしかない。あの日から妻は食事を少ししか摂らなくなった。ご飯と汁以外には副菜に手を伸ばさなくなった。そして心配する私の顔を見上げながら、「胸が痛い」と訴える。ステージ4と宣告されたガンは、もうすでに鎮痛麻薬の服用を勧められているほどだった。体もこのようなのに、その上に重なるこの精神的な打撃には、何が効くのであろうか。

 昨晩からの春の嵐で、真っ盛りであった桜の花は、吹雪となって山里を染めた。そのあとに待ち構えたような浅黄色の新芽が顔をのぞかせている。この山里にも春の盛りはもうそこまで来ているというのに、悠々にはまだはじけるようなあの春が先送りになっているようだ。もうしばらくは、皆ともにこの哀しみの中にひっそりと暮らそうと思う。

 

風の谷〜泰阜村     
   春爛漫の夕に 翁逝く

 山裾が桜の花の薄紅色に染められた泰阜村の最も美しい夕べ、誤嚥で苦しまれたM翁が旅立たれた。覚悟はしていたものの、本人もその覚悟をなさっていると聞いてはいたけれど、この胸の苦しさは何なんだろうか。ご遺体をご家族に引き取られてしまうと、私たちには、それまで家族のように暮らしていた記憶だけが残る。そして寂しさに誰もが言葉を失う。この家の屋根の下でともに暮らしていたお仲間たちも、俯いて先に旅立たれたM翁を想う。

 入浴介助の時のおしゃべり、心不全で胸水が溜まった胸が苦しいと言われると、ベッドのギャッジアップの角度をあれこれ工夫し、クッションをあちこちに当てたよね(あんまり役に立っていたかどうかはわからないが・・・)。軟下剤を服用していても、誤嚥のために充分に食事の量が取れなくて、お雑炊と副食を少しに悠々の頂き物のおやつ+自前の栄養プリンやユンケル皇帝液等々では足りない摂取量に、日に何度も「便が出ないのが苦しい」と訴えられ、腹を温めたりマッサージしたり、摘便したり・・・やっと「出たー」と喜んでいても水様便だった。私たちはいっぱい昔語りを聞いたっけ、ともに驚き共感しその数々のご苦労に頭を下げていた。

 お姿が一瞬で目の前から消えてしまわれるのは、苦しいものだ。寂しくて、ただ共に暮らした日々の思い出だけが、繰り返し繰り返し胸に湧き上がってくるのをじっと耐えるだけである。

 最後の日々を家族のように暮らした施設職員も、このように喪に苦しんでいることを、世間にはあまり知られていないような気がする。

 今日は庭に出て、ニョキニョキと一面に生え出た草取りをしよう。何も考えずに・・・


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