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風の谷〜泰阜村
過疎の村の老人の 安らかな死のために

長野県は長寿で知られている。その中でも泰阜村は元気なお年寄りが多い.
 80歳、90歳はまだまだ現役で、村の道路や水路等、山林を守る共同作業は彼らが陣頭指揮を取っている.
 そのお年寄りが最後に脳卒中や事故によって倒れたとき、どうするかが、この21世紀の医療に問われている.
 大都会からやってきた一人の青年医師は、90歳をとっくに過ぎた意識障害のあるお年寄りたちに、胃に管を通して高カロリーの栄養を与える手術や、延命のための手厚い手術を、惜しげもなく投入することに疑問を感じていたと言う・・・・
 今その80代、90代のお年寄りの人生はどのようであったかに想いを馳せれば、人として どのようにあるべきかが見えてくる。
 戦後60年たった今でこそ、過疎の村の年寄りたちも、救急車で病院に運んでもらえるようになった。
 それまで多くの貧しい山村では、お医者様に最後の脈を取ってもらえずに死んでいく身内を、少なからず持っているものだった。
 その彼らが、戦後日本の復興のために働いて働いて一生を終えようとするとき、年だからというそれだけの理由で、21世紀の現代の医療の恩恵を受けられずに、死ななくてはならないのかを 考えたい。
 現代医療の総力を挙げ、それでも適わぬと知ったとき、そのときこそ安らかに、自分の寿命を受け入れることが出来る。
 自分のために尽くされた医療とスタッフの尽力に感謝を込めて、「もう充分だ」と、自ら言える気骨を持つ人々であることを信じてほしい。
 医療に携わる人々に、これらのお年寄り達が この日本繁栄の底力であったことに想いを馳せてほしい。
若い世代のひとびともやがて年を取る。この老人達を、いかに安らかに見送る事が出来るか、
 その心映えが 今医療に問われていると思う。
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風の谷〜泰阜村  
   医療過疎地ということ

 泰阜村は冬支度を急ぐ山里の紅の盛りの中で、50歳と4ヶ月の働き盛りの男性を見送った。
   20代になったばかりの二人の息子の父親であった。
 150人を超える参列者たちの誰もが、そのあまりの若さを心底から惜しんだ。
 その肺がんの転移による死は、発見されるまでに5年経過していたという。21世紀のこの時代に、何時までもなおらぬ咳をまわりから指摘されても、主治医を信頼して最後まで着いていったという・・・
 その律儀さでだれからも愛された彼の死に、参列者のだれもが「残念で、残念でたまらない」と涙した。

 過疎の村泰阜、人口の38%が老人というこの村にとって、50代が始まったばかりの彼は「大切な宝」であった。
医療過疎とは、医者がいないことではない.最新の医療に関する正しい情報を、医者も、家族も、本人も持ち得なかったことであると
この日、思い知った。
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風の谷〜泰阜村  
狩場仙人との出会い

 先週末 泰阜村の狩場仙人からお招きを受けた。
父親の代からプロの猟師だったといわれる 鋭い眼光が特徴のM氏は、全身無駄なところは何一つないという表現がピッタリの ばねのような筋肉と骨格とを具えていた。
 6畳一間の離れに通された我々夫婦は、部屋の真ん中にでんと構た囲炉裏に 真っ赤に熾った炭火に魅入られ、少し開けられた障子窓から見える 秋の渓谷に虜になった。
 囲炉裏端の周りを取り囲む白壁には、M氏の父親が使っていた 鉞や名前は知らないが狩の道具が一面に飾ってあり、
りっぱな角をもった鹿の骸骨も・・・・
 これに続くもてなしの数々は もちろん山の珍味尽くし、中でも 大スズメバチ(体長4センチはありそうな)の蜂の子は
 ほんのり甘く 芳醇なチーズのような舌触りで 非売品なのでめったに口に入らないという。
 マツタケ酒を舌でコロコロと味わい、茸三昧に舌鼓を打ちながら、野山を駆け回って年に3ヶ月だけ解禁になるという狩の話を堪能した。

 そのM氏があるときから、プロとしての猟師を止めたのだという「何故か?」と問と、
「何十年もともに猟をし誰よりも大切に思っていた仲間をお金のために失ったからだ」と言う。

「お金で失った仲間は いかなることをしても もう元には戻らない。取り返しのつかないことをした」と言う。

それ以来 とった獲物は いかなるものもお金では 売らないということだった
そのM氏に なぜ私たちのようなものがこのようなお招きを頂いたのか?と問と、


「会った一瞬間で 何か自分の生き方に相通ずるようなものを ピンと感じた」と言われた
 M氏のここまで潔く生きる姿に感銘を受けた私たちは、
 M氏とその奥様とその座に同席した5人で 義兄弟の杯を交わしてしまった。
  

  泰阜村渓谷に立つ庵での 秋雨が降りしきる夜の 夢のような一刻であった。
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風の谷〜泰阜村  
つるべ落としの日暮れに

泰阜の秋の夕日があたり一面の空と雲を 真っ赤に染めて、谷を挟んだ対岸の幾重にも重なる暗い山陰に ストンと落ちる。
 大自然の営みの 厳粛な一瞬にことばを失う子犬と私。
 泰阜村に夫が身を落ち着け、私が過去の全ての仕事を引き払って 本当の泰阜村の生活が始まった。
 取り入れがすっかり終わった山里は、なぜか シンと静まり返っている。だれも拾うう事のない山胡桃をひろいながら、今宵の夕食は五平餅でも焼こうか と思う。

風の谷〜泰阜村   
山里への訪問者たちのこと

 泰阜村は、介護保険が始まる10年以上も前から在宅福祉に力を入れていた村で知られている。
 村には毎年のようにいろんな大学の調査や、TVの取材や新聞の取材が村を訪れていて、「調査にご協力を」というと、「また調査か、一体同じことを何回聞いたら気が済むのかね」と言われる。
 しかし今回の我々の調査は、今までとは恐らくその規模や調査の中身が桁外れに違っていたらしく、調査用紙が配布されてその中身を目にしたとたん、「なんでこんな調査をやるんだ!調査の目的は何だ!」という村民からの激しい反応が役場に寄せられ、8月末の2〜3日は、役場職員がその対応に疲労困憊したという事態が起こった。
 とりわけ暑かった平成19年の泰阜村の夏、泰阜村に何かが起こった!
 さる8月18日の調査員研修会に始まり、8月27日から9月8日までの訪問調査期間の間、愛知県東海市、長野市、群馬県高崎市の大学、専門学校から、総勢40名ちかくの学生と教員が、聞き取り調査のため、泰阜村全村民の一軒一軒のお宅を訪問した。
 全国でも初めての試み・・・であろうと思われる、「泰阜村生活満足度調査」の訪問聞き取り調査である。
 これは全村民(0歳〜5歳を除く)から、それぞれの世代ごとに、泰阜村の暮らしの中で実際に感じている要望やご意見を伺うというものである。
 この調査には、泰阜村にしかできないであろうという「助っ人」のご協力があった。これが他のどこの自治体でも実現不可能ではないかと思われるできごとである。その一つは、泰阜村始まって以来という猛暑の中を、村民の有志のお年寄りたちが自分たちの車を走らせて、村中の一軒一軒のお宅に、「よろしく頼む」という一声とともに、学生たちを送り届けるという大事業を担ってくれたのである。
 その上にこれがまたまた予算がないので日当は殆ど無償である!
村人は、顔見知りの村民が連れてきた若い学生調査員に心を開くのに、あまり時間を必要としなかった。
 学生たちは、山ほどの新鮮な野菜、甘いお茶菓子等を抱えて戻ってきた。最後には地酒を2本抱えて帰ってきた学生も現れる始末、一体どのような訪問調査が展開されたことであろうか。
 学生たちは「泰阜村のお年寄りや子供たちや、働く世代の人たちが、みんな真剣に生きていること、村の生活に満足していることが素晴らしい」と感動していた。
 そしてみんな、泰阜村とそこに住む村人のことが大好きになった。
「自分の第二のふるさとです。また帰って来たいです。」といってくれた。
 学生たちは調査の後の慰労会の席上、このような勉強の機会を与えてくれた村と村長に感謝し、村長を胴上げした!

 

 9月8日に調査本部が撤収され学生たちが去ると、泰阜村の暑い夏が過ぎ去り本格的な秋がやってきた。
泰阜の山里に赤とんぼが舞い、秋の虫たちの大合奏が響いている。
 ススキの穂波が揺れ、萩、おみなえし、桔梗、撫子、水引などの秋の花が咲き乱れている。
  稲刈りが終われば、秋祭りはもうすぐそこだ。
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